2015年10月29日

労働事件における慰謝料 : 労働判例からみる慰謝料の相場

【本人訴訟当事者・実務家向】
【推奨度:☆☆】

解雇・パワハラ・賞与の査定。
会社の扱いが気に入らない。

ついては慰謝料100万円請求できますよね?労働審判で。


…そんな素人の妄想を膨大なデータで粉砕する、でもよい本です。

(個々に相手取った奴はさておいて)束になった弁護士はいい仕事を世に送り出してくれるよな、と、この本を読んで思わされました。


この本には、過去10年分の判例専門誌に収録された労働関係の慰謝料請求事件判決から事案の概要、請求額と認容額が事件類型ごとに収録されています。その数440件。当分のあいだ、類書はでないでしょう。

こうした本がなかった今まで、『労働事件の慰謝料分析は、これまでブラックボックスにあり、系統立てた調査や資料の分析は行われてきませんでした。そのため、若手弁護士からは、労働相談で慰謝料を質問され相場感がわからず適当に答えてしまったというような赤裸々すぎるエピソードが語られることもありました』(本書 はしがきより)というのは確かにそうで、この本が実務家の相場感の早期形成に役立つことを強く期待します。


なんとなく慰謝料請求しようとお考えの本人訴訟希望者に示されるデータとしては厳しいものがあります。

本書では配転・降格・懲戒・パワハラ・セクハラ・解雇・雇い止め・労災など全14類型が挙げられていますが、そのうち請求が一部でも認容されたのは

  • 懲戒処分 22件に対し6件
  • パワハラ 45件に対し28件
  • 解雇 89件に対し33件
  • 雇い止め 27件に対し9件

完全敗訴を免れたものがこれだけだ、と考えねばなりません。100万円の請求に対して5万円の認容判決でも請求認容のほうにカウントされることは、本書所載の表をみれば明らかです。

さらに注意しなければならないのは、本書における調査母集団は『判例専門誌に掲載されたもの』であることです。

当然ながら素人が適当に起こした本人訴訟の敗訴判決など掲載されないので、実際のレートとしては上記の統計よりさらに労働側に厳しい、と考えねばなりません。


上の数字をみて、パワハラに対する慰謝料請求なら半分の事例で認められる、と思ったらもう既に情報戦で負けてます。

この本のまじめな使い方としては、書かれている説明だけで納得するのではなく記載の裁判所名・判決日をキーにして判例検索サービスを探し、判決全文を読むためのリファレンスブックとするのがよいでしょう。


他人事として言うなら、請求額に対して一割程度の請求しか認められてない裁判例がホイホイ出てくることに少々笑えてくるところです。訴訟費用を払わされる原告はたまったものではないでしょうが…依頼人と意思を一致させて、必要な請求をシャープに実現することはとても難しい、ということなのでしょうね。

書誌情報
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2015年05月22日

労働事件使用者のための"反論"マニュアル : 紛争類型別

【本人訴訟当事者・実務家向】
【推奨度:☆☆】

−なぜ使用者向けの本を勧めるんだ?
そう思われた労働者の方、地裁本人訴訟やご自分での労働審判の申立はしばらくやめておいたほうがいいです。

これは労働紛争の類型別に、想定される労働者側からの主張に対する「使用者側からの反論」が網羅されています。
もちろん同書より低レベルなもの、明らかにウソ、そうしたものは同書とは別の世界で存在するのですが、訴訟で、あるいはそれに先立つ労基署への申告に対して「使用者側が正々堂々戦おうとした場合に想定される反論」を知っておいて備える、という態度は労働者側での本人訴訟当事者に大きく欠けているものです。本署はそれを補うもので、一般的な法律の解説書とちがって労働者との「紛争状態」を想定して書かれている点で珍しいものです。

よい専門家の相談にめぐりあえず、やむを得ず一人で地裁本人訴訟をすすめるような方には本書は特に役に立つでしょう。
書誌情報
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2015年05月12日

新・労働法実務相談(第2版)

【本人訴訟当事者・実務家向】
【推奨度:☆☆】

事例を示した労働相談が一問一答形式で掲載されています。
一問に対して見開き2ページから数ページの解説です。
内容は労使いずれにも偏っておらずバランスが取れています。
ほぼ毎年出版される点も内容の信頼性確保につながっています。

先に紹介した「新 労働事件実務マニュアル」と違い、裁判その他の紛争解決手続きの説明はほとんどなく、書式は全く載っていません。
法律上の、あるいは事実上の考え方を解説する本として、企業側で紛争予防の指針として使うのもよいだろうな、と思えます。
回答中に示される裁判例は裁判所名と日付を載せたうえでごく簡単に要旨に触れるかたちです。このデータをつかって、図書館で使える判例検索データベースから全文を入手するとよいでしょう。

新聞のように細かい字でひたすら説明が書いてあり、挿絵や表はあまりなく、読みやすくしよう、という印象はありません。硬派なつくりです。

知りたいことがあっという間にわかる、ということはありません。
回答が詳しすぎて初心者には近寄りがたいかもしれません。
でも、落ち着いて読み込むと自分のほしかった手がかりが案外見つかる、回答というよりは考え方を示すタイプの本です。
自分の関心がある設問とおなじ分野にある他の設問を読んでみる、というのはこの本では報われる努力になるかもしれません。

活字を丹念に追うことは必要ですが、ここからさらに詳しい裁判例を探す入り口になりうる良書です。
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2015年05月11日

新労働事件実務マニュアル (第3版)

【本人訴訟当事者・実務家向】
【推奨度:☆☆】

弁護士会の編集にかかる良書です。2014年、第三版が出ました。
実務家向け、というよりはっきりと弁護士向けの本ではありますが、地裁での本人訴訟・労働審判の本人申立を考えている方には図書館相互貸借で取り寄せをおすすめします。
巻末に、この出版社のサイトからの「書式ダウンロードサービス」のURLが記載されています。利用に制限はないようです。
労働紛争の類型別と、紛争解決手続きの種類別の解説・書式が掲載されています。

珍しいのは第2編第5章「雇用関係に基づく一般先取特権の実行」524ページから531ページで退職金を請求債権とする差押命令申立を試みた事例がおさめられていることです。裁判所書記官とのやりとりや書類の追完の状況が書かれています。
実際にはこれより早く発令されることもあれば窓口で蹴散らされることもある、と本人申立希望者には考えていただきたいのですが、一般書籍でこの類型の申立の詳しい説明のある新しい本はなかなかありません。
実務家向けに向けた「実務の本」としては本書がいちばん内容が中庸で(労働側・使用者側いずれにも寄っておらず)安定していてレベルが高いと考えています。弁護士による代理を当然の前提としているのは、しかたがありません。
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2015年04月23日

労働時間規制の法律実務

【本人訴訟当事者・実務家向】
【推奨度:☆】

残業代を請求する地裁本人訴訟で、書類作成中にわけがわからなくなったときにたどり着く本。
分厚く、重たく、高いです。
労働時間とその計算に関する問題と考え方は本書にあらかた網羅されています。
使いづらいが無視できない、おすすめできないけれど見過ごしてほしくない重要図書といえます。
読み込む際には、基本的にはこの著者が経営側の弁護士であることに気をつける必要があります。労働側に有利な書きぶりにはなっていませんが、訴状の執筆にあたって参照するならむしろそれでもいいのかもしれません。
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