2016年02月24日

中小企業経営者のライフプラン : 起業から事業承継まで

【実務家向】
【推奨度:☆】

中小企業の事業承継のうち、一億円くらいは役員退職金で引っ張れそうな、つまり十二分に儲かってる会社とその経営者を対象にする本です。著者は税理士で、おそらく生命保険の提案営業を積極的になさる方々のようです。

書籍としておすすめできるのですが、好感は持てません。
「アツい思いの経営者を全力で支援する熱血(ただし生命保険セールスパーソンを兼ねる)コンサルタント」を読者に想定する第1章を暑苦しいと感じなかった方には快適に読めるでしょう。

筆者は冒頭2ページで萎えたのですが、この本の特色は第4章以降にあります。『そこそこ儲かってる中小企業の経営者とその家族を中心に、生命保険をフル活用したコンサルティングの成功例を想定した事業承継の物語』という点で類書がありません。会社法と遺言とせいぜい民事信託をツールに会社法務に関与しようとする士業の方々よりは、経営者に訴えかけるものがあるはずです。

記述や論調は、なんだか恣意的に思えます。第1章で『役員報酬を実際に払えるほどの経営状況にない』企業と社長の事業承継問題の重要性を説いておきながら、後半ではそうした着眼点からの説明が一切なくなります。逆に「100の役員報酬が次世代に渡る時には22.5%しか渡せない」(同書134ページ)といって生保をつかった相続対策を提案する保険営業マンとこれにあっさり納得してしまう社長が後半の主役になるのですが、このやりとりに思わず苦笑してしまう(所得税・相続税とも最大税率を想定しているが、そこまで稼げる中小企業がどれだけあるやら)か、そのやりとりに引き込まれてしまうかは読者の個性がわかれるところでしょう。

事業承継対策が網羅的に解説してあって参考になる、というものでもないと考えます。この本で勧めたいのはおそらく生命保険の有効活用で、それ以外の遺言等の説明は貧弱です。また、保険商品の活用の可能性を幅広く説明するというより「一つの会社と一つの経営者家族の物語」を綴っているのでここから外れた状況で参考になるか、といったら厳しいでしょう。

それでも、「経営者一家を相手にしたライフプランにおける生命保険活用の重要性」を単行本にまでまとめた点では類書がありません。この手のコンテンツは従来、雑誌の一記事にしかなっていなかったのです。

気に入らないのですが気にはなる、そんな本です。

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posted by 代書やさんと、そのアシスタント at 18:27| Comment(0) | TrackBack(0) | ファイナンシャル・プランニング

2016年02月23日

失敗しない廃業・事業承継のしかた事典 : 早めの準備と決断が決めて!

【初心者向】
【推奨度:☆】

うっかり会社を作ってしまった。
いつまで会社を続けられるかわからない。

そんな社長が、配偶者。

本書はそんな方々に、『事業のやめかた』を示した本です。

資本金1円で会社が作れるようになったのは平成15年、もう10年以上は経ってしまいました。制度施行直後の経産省のアンケートによれば、この制度を使って会社を作ってしまった人の7割弱が元会社員、5割弱が調査時点で年齢40歳以上です(最低資本金規制特例制度利用者実態調査 平成16年4月)。

廃業や債務整理の方法だけなら弁護士や司法書士による解説本は多々あるのですが、本書の珍しいところは事業の終わらせ方として

  • 『自分としてはもうやらないが誰かに譲る』(事業承継またはM&A)
  • 『やめられるうちにやめる』(自主廃業)
  • 『借金が返せず、強制終了』(破産)

これらの可能性を等分に解説しようとしている点です。第一章にその考え方ははっきりと示されています。

思い入れや余計なプライドは抜きにして会社は金儲けのための装置と考えれば、対処方針を決めるにあたって第2章で会社の収支状況や財務基盤・将来性を同書にいう『4つのものさし』に当てはめて考えてみる、という説明にも納得できるものがあります。これは、本書の著者が経営コンサルティング会社であるからかもしれません。破産(弁護士)、相続対策(税理士)など著者の立場に制約されて特定の方針を推奨したり説明の充実度に偏りがあるような内容になっていない点に好感が持てます。

自分で作ったり家族が作ったものを相続してしまった小規模企業をどうにかしなければならない方が、誰かに相談する前に『どんな方針をとってその事業をたたむことができるのか』を一覧できる参考書として、いい意味で初心者向けの本です。とるべき方針がきまったら、その方針についてさらに詳しく解説した本を読み進めるなりその分野の相談担当者を探せばよい、ということになるでしょう。

この本は、ひょっとしたら実務家も使えるのかもしれません。図版が豊富で個々の説明がわかりやすいため、相談に来た方に推奨しようとする手続きや方針に関する説明を本書に記載の図や解説でおこなうことができるかもしれない、と考えています。

書誌情報
posted by 代書やさんと、そのアシスタント at 18:15| Comment(0) | TrackBack(0) | ファイナンシャル・プランニング